「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」 新井紀子:著 東洋経済新報社:発行
非常に興味深く、また、共感を覚える内容で一気に読み終えました。
著者は数学者。文章は論理的でありながら平易で、専門知識の無い読者にも分かり易く書かれていると思います。最近、社会的に関心が高まっている「AI(人工知能)と人間の役割分担」に関して解説されています。
近年、AI の開発と導入が進むと人間の仕事は奪われてしまうのではないかという話が、人々の不安をかき立てるように語られるようになりました。根拠の説明はできないのですが、私はそうした見方に疑問を感じていました。この本を読んで、私の疑問は半分外れ半分当たりだったと思っているところです。
半分当たりというのは、やはり、AI には、複雑怪奇で予測のつかない人事の全てを独自に判断はできないということです。半分外れというのは、それでも、数学の言葉に置き換え得る(プログラミングできる)内容に関しては AI は人間に劣らぬ習熟を達成するということでした。
では、プログラミングされた AI に仕事を奪われてしまう人間には何が欠けているのかというところで「教科書が読めない子どもたち」という観点につながっていきます。
最近、現場の教師たちが子供たちの読解力低下に危機感を覚えることが増えているのだそうです。それはスマホに頼り過ぎだからとか読書をしないからという問題ではないと著者が指摘します。そして、この読解力を養うことこそ AI と人間を差別化し生き残りを可能にする能力なのだと訴えています。
この本の書評を的確にまとめられるほどの力が私には無いので伝わりにくいかもしれませんが、とにかく、 AI と共存することは避けられない今後の社会で、自分が人間として人間らしく生きる為には何が大事なのかを示唆してくれていると思います。著者はそこまで言及はしていませんが、私は、ますますコミュニケーションが成立しづらくなっている現代社会の根本原因にも関連していることかもしれないと感じました。
本が売れないと言われる今日において、2018年2月第1刷発行で5月には第9刷を発行しているという事実は、いかにこの本が読まれているかという証でしょう。¥1,500-です。このごろは本が高くて、なかなか自分では買わないのですが、著者の今後の活動にも寄与することがわかり、この本には対価を払う価値があったと思います。
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