カズオ・イシグロ 原作の「私を離さないで」、テレビドラマが最終回だった。
主人公たちが子供時代を過ごした学苑の校長だった老女性と主人公の女性が海辺で再会する最終場面、
この物語のテーマの全てはそこに集約されている。
人は、何のために生まれ、どのように生きて終焉を迎えるのか。
まるで部品のように体を切り取られて他人に提供するためにだけ存在させられるという究極の生を生きる人間を設定して、
作者は「生きる」という意味を読者(ドラマ視聴者)に問いかける。
★★★
折しも、テレビニュースでは、日本の自殺者の統計数字が発表された。
「私を離さないで」・・・自殺した人たちは、寸前まで、心のどこかでそう叫んでいたに違いない。
死を目前に意識する状況に立たされた時、
人は誰しも「私を離さないで」と、誰に向けるともない言葉を思い浮かべそうな気がする。
しかし、人間は100%の確率で、いつかは肉体の終わりをむかえる。
しかも、その旅立ちは、必ず独り。
自分が死ぬ瞬間に、自分の心に寄り添うのは自分しかいない。
次第に社会から距離が離れる老齢になってみると、死は常時頭の片隅に住みついて離れない。
何をしていても、気が付くと自身の人生を振り返り、総括している。
「これで良かったのだろうか?」と疑問を抱く時期も過ぎ、もはや猶予のない時間帯に差し掛かっていることを意識せざるを得ない。
その一方で、自分の死など思い煩っても仕方のないこと、という想いも強くなってきた。
その時が来るまでは生きるしかないのだと、改めて自分に言い聞かせる。
広過ぎず狭過ぎず、大き過ぎもせず小さ過ぎもせず、あるがままに、
身の丈をわきまえてヒッソリと生き、その日を迎えたい。
★★★
原作のしっかりしたドラマは見応えがあり、さまざまなことを考えさせてくれるものだ。
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