通勤で利用する最寄りの駅への道には、ちょうど行程の半ばあたりに急坂がある。斜度30-40度くらいに感じる(数字に弱いので正確かどうかはわからないが)。自宅を出ていったん下がって、その後上って平坦な道という行程で駅まで12-13分。
亡夫はこの坂道を上るのが苦しくなったことで体の異変に気付いた。自分も最近この坂道で動悸と息切れがするようになり、亡夫の発病時のことを思い出すことが多くなっている。年齢のせいだとは思うが、上りきったところからしばらくは呼吸が荒くなる。
その急坂は途中で右に90度くらい曲がっており、曲がってすぐの道路わきに数年前に綺麗なアパートができた。セキュリティがしっかりしていそうな二階建て10戸足らずの部屋数である。自分の現在の仕事柄、集合住宅の管理状況に目が行ってしまうが、ここはしっかり管理されている。
このアパートの道路沿いには1本のハナミズキが植えてあり、その足元に、一つのライトが木を照らすような向きで設置されている。その照明が問題で、特に夜明けの遅い冬場に私を悩ませていた。息を切らせて坂を上り、あと少しで平坦道路という直前でカッと光が目に飛び込んで来る向きになっていたのだ。何度経験しても慣れることのない"光のダメージ"にずっと悩まされていた。建物管理業務に従事している者としては、これは照明の向きを少し変えれば済むことだと思い続けてきた。
昨年秋、仕事帰りにその照明の傍に、植栽の手入れに来たと思しき人を見つけた。管轄違いだとは分かっていたが、ダメ元で声をかけた。「あのね、この照明の向きを変えてほしいのだけれど何とかならないかしら」と。案の定、彼は「さあ、自分たちは木の手入れに来ただけなので・・・」と答えた。それはそうだと、私は状況が改善されることに期待はしなかった。
ところが、年が明けてしばらくして、私は照明の向きが変わっていることに気が付いた。あの植栽管理のお兄さんが私の要望をちゃんと管理会社に伝えてくれたらしい。私は、その照明のまぶしさが解消されたこと以上に、植栽担当という管轄外の部署でありながら、ちゃんと要望を伝えてくれていたお兄さんに対する感謝の気持ちで嬉しくなったという次第。
日本人の、仕事に関する能力が低下しているのではないかという不安と落胆の日々に、まだまだ捨てたものではないと思わせてくれるエピソードのひとつにはなると思って嬉しかった。
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