第3・4回  性と生を考える

河野 美代子   河野産婦人科クリニック院長


【講師について】

広島で外来クリニックを開業。1981年以来、性的トラブルで受診する少女達の状況を目の当たりにし、それらを数冊の本にまとめて出版。「正しい性教育」の必要性、性感染症の予防を説く。ボランティア団体「広島エイズ・ダイアル」代表。


【講座のまとめ】

講師が診た10代の妊娠のうち、70%が中絶・20%が出産・10%が異常流産。

10代の妊娠は、ほとんどの場合が、親に説得され、連れられて中絶しに来院するという。

処置台の上で、泣きながら処置を受けた女性は、その後の人生に大きな傷を背負って生きていくことになる。

はたして性や出産は、大人なら許されて、若ければ駄目なのだろうか?
女性は、ごく短期間の「適齢期」のプレッシャーを感じながらある時期を過ごす。

「産む・産まないは私が決める」という性の自己決定ができる女性として、自分自身で自分の人生を掴み取るためには、女性が自ら「身ごもる性」であることを自覚しなくてはならない。

若い女性が望まぬ妊娠をする背景は、多分に、自らの身体についての無知が原因となっている。何故知らないのか?それは、正しい性の知識を伝え教えていない大人の責任である。

では何故、大人は、性に関する知識を教えないのか?
そこには、大人の性の状況の貧しさが垣間見える。

種の保存は、生物の基本的な行動であり、人間にとっても性は、大切なことであり素敵なことであるはず。

近年の寿命の延びに従い、性の期間も長くなっている。ところが、バブル崩壊前から、熟年離婚が増加し、大半が妻からの申し出となっている。案外、夫婦の性の貧困が一因と言えるかもしれない。

若い者に正しい性の知識を教えなくてはならないこの時期に、学校教育をはじめとする社会の状況は退行の傾向にある。

若者は、性風俗の雑誌やアダルトビデオから、間違った性の知識を身につける機会が多い。その結果生まれる悲劇は、男女を問わない。
愛し合う男女が幸せな性の関係を築いてゆくためには、(身ごもる性の女性は自分の身体に責任を持ち)(身ごもらせる性の男性は女性の身体に思いやり)を持たねばならない。

昨今、出生の数が減少しているが、幸せな子どもがたくさん生まれてくるためには、まず大人が豊かな性を生き、幸せな子育てのできる社会を作ることが先決である。

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三時間の講義時間の最後の20分、性教育用に製作された映画を見ました。
赤ちゃんが母親の身体を離れ、初めて自発呼吸をする瞬間が撮影されていました。出産直後の女性の微笑みは、なんとも言えず満ち足りた表情でした。

ほとんどが中高年の女性の受講者でしたが、見終わって、目に涙を浮かべている人が多かったです。

新しい命の誕生とは、いつの場合も感動を誘います。

この命を引き継ぐ私たちは、つくづく、より良い生き方を次の世代に伝えなければならない、というのがこの回の講座終了時の思いです。